とんぶりに含まれる成分「モモルジンIc」の脂肪吸収抑制効果を解明 肥満や脂質異常症を改善する機能性食品素材開発に期待

とんぶり(マウンテンキャビア)(左) と 、モモルジンIcの化学構造(右)
とんぶり(マウンテンキャビア)(左) と 、モモルジンIcの化学構造(右)

近畿大学大学院薬学研究科(大阪府東大阪市)薬学専攻博士課程2年 高田隆矢、近畿大学薬学総合研究所教授 森川敏生は、オリザ油化株式会社(愛知県一宮市)、有限会社イーエステック京都(京都府京都市)、株式会社京都有機化学研究所(京都府京都市)、一般財団法人生産開発科学研究所(京都府京都市)との共同研究により、秋田県の伝統食材である「とんぶり(マウンテンキャビア)」に含まれる「モモルジンIc」という成分が、胃の内容物を腸に送り出す速度やホルモン分泌を調節することで、食事からの脂肪吸収を抑制し、抗肥満・脂質低下効果をもたらすことを明らかにしました。本研究成果により、マウンテンキャビアがもたらす効果のメカニズムが明らかになり、今後、食事が原因の肥満や脂質異常症に対して改善効果を示す機能性食品素材への応用が期待されます。
本件に関する論文が、令和8年(2026年)6月16日(水)に、日本生薬学会が発行し、シュプリンガー・ネイチャー社が出版する生薬・天然物化学分野の学術雑誌"Journal of Natural Medicines(ジャーナル オブ ナチュラルメディシン)"にオンライン掲載されました。

【本件のポイント】
●マウンテンキャビアに含まれるモモルジンIcによる、食事由来の脂肪吸収抑制効果を解明
●モモルジンIcは、胃の内容物を腸に送り出す速度やホルモン分泌を制御することで、食欲を調節
●本研究は、食事による肥満や脂質異常症を改善する機能性食品素材への応用が期待される研究成果

【本件の背景】
秋田県の特産品として親しまれる伝統食材「とんぶり」は、ヒユ科ホウキギ属の一年草であるホウキギの果実で、見た目や食感から「畑のキャビア」と呼ばれ、古くから滋養強壮などの目的で生薬としても利用されてきました。近畿大学薬学総合研究所の研究グループは、長らくマウンテンキャビアの効能に着目し、オリザ油化株式会社との先行研究において、マウンテンキャビアに含まれる新規成分として「アシル化フラボノイド配糖体」を発見し、インスリン分泌促進効果を見出しました。
マウンテンキャビアには、「モモルジンIc」という成分が多く含まれており、鎮痛・抗炎症、抗アレルギー、胃粘膜保護など、多岐にわたる効果をもたらすことが知られています。研究グループはこれまでに、マウンテンキャビアから抽出したエキスおよびモモルジンIcに、ブドウ糖の吸収を抑制する機能があることを明らかにし、血糖コントロールに有用な機能性食品素材であることを示していました。しかし、その具体的な作用機序は解明されていませんでした。

【本件の内容】
今回研究グループは、マウンテンキャビアエキスやモモルジンIcがどのようなメカニズムで抗肥満・脂質低下効果を発揮するかを検証しました。オリーブオイルを与えたマウスにマウンテンキャビアの抽出エキスを投与したところ、食後の中性脂肪の上昇が有意に抑制されました。また、マウンテンキャビアエキスの主成分であるモモルジンIcを投与した場合は、より低濃度で有意な抗高脂血症効果を示すことが明らかになりました。
この効果のメカニズムを解明したところ、モモルジンIcは脂肪を分解する酵素の活性を直接阻害するのではなく、胃の内容物を腸に送り出す速度(胃排出)を著しく遅延させることで、中性脂肪の吸収を緩やかにしていることが明らかになりました。さらに、モモルジンIcは、膵臓からインスリン分泌を促して血糖値を下げるホルモンを有意に増加させました。
続いて、高脂肪食を与えたマウスに、マウンテンキャビアエキスを14日間投与したところ、体重増加が抑制されました。同様に、モモルジンIcを投与した場合は、内臓脂肪の蓄積および悪玉コレステロール値を有意に減少させました。なお、総エネルギー消費量※1 については、マウンテンキャビアエキスの投与による有意な変化は認められませんでした。
以上の結果から、マウンテンキャビアエキスおよびモモルジンIcは、エネルギー消費量ではなく、胃排出遅延やホルモン分泌による食欲調節を介して、抗肥満および脂質低下効果を発揮することが示唆されました。これまで、モデル動物を用いた抗肥満素材の研究で、総エネルギー消費量まで踏み込んだ例はなく、今回が初めての成果と言えます。

【論文掲載】
掲載誌:Journal of Natural Medicines(インパクトファクター:2.5@2024)
論文名:Anti-obesity and lipid-lowering effects of mountain caviar extract and its principal
    saponin momordin Ic via delayed gastric emptying and GLP-1 secretion
    independent of energy expenditure
    (マウンテンキャビアエキスおよびその主要サポニン成分モモルジンIcの抗肥満および
     脂質低下作用はエネルギー消費とは無関係に胃排出遅延および
     GLP-1分泌を介して発揮される)
著者 :高田隆矢<sup>1</sup>、竹田翔伍<sup>2</sup>、下田博司<sup>2</sup>、津雲基光<sup>3</sup>、
    久保田和孝<sup>3,4</sup>、松田久司<sup>1,4,5</sup>、森川敏生<sup>1,6*</sup> *責任著者
所属 :1 近畿大学薬学総合研究所、2 オリザ油化株式会社、3 有限会社イーエステック京都、
    4 株式会社京都有機化学研究所、5 一般財団法人生産開発科学研究所、
    6 近畿大学アンチエイジングセンター
URL :https://link.springer.com/article/10.1007/s11418-026-02052-3
DOI :10.1007/s11418-026-02052-3

【本件の詳細】
研究グループは、マウンテンキャビアエキス(MCE)と、その主要成分でサポニン※2 の一種であるモモルジンIcが、モデルマウスにおいて顕著な抗肥満作用および脂質低下作用を示すことを明らかにしました。
まず、オリーブオイルを与えたマウスにMCE(125~250mg/kg)を投与したところ、食後の血漿トリグリセリドの上昇が有意に抑制されました。また、MCEの12.6%を占める主成分であるモモルジンIcを投与した場合は、20mg/kgで有意な抗高脂血症効果を示しました。
メカニズム研究により、モモルジンIcは主に脂肪を分解する酵素である膵リパーゼを阻害するのではなく、胃排出を遅延させることが明らかになりました。さらに、モモルジンIcは膵臓からインスリン分泌を促し血糖値を下げる働きをもつ、GLP-1※3 というホルモン分泌を促進していることが分かり、食欲調節における腸管由来ホルモンシグナル伝達の関与が示唆されました。
続いて、高脂肪食を与えたマウスでは、MCEの継続投与により体重増加が抑制された一方、モモルジンIc(20mg/kg/日)は内臓脂肪蓄積ならびに血中LDL/VLDLコレステロール※4 レベルを有意に低下させました。さらに、二重標識水(DLW)法※5 を用いて総エネルギー消費量を測定したところ、これらの代謝改善は総エネルギー消費量の増加を伴わないことが明らかになりました。
これらの結果を総合すると、マウンテンキャビアエキスとモモルジンIcは、総エネルギー消費量とは無関係に、胃腸機能と満腹感に関連するホルモン経路を調節することにより、食事誘発性肥満と脂質異常症を改善することが示唆されました。GLP-1を介したシグナル伝達の根底にある詳細な分子メカニズムを解明し、その臨床的意義を評価するためには、さらなる研究が必要です。

【研究者のコメント】
森川敏生(モリカワトシオ)
所属  :近畿大学薬学総合研究所、近畿大学アンチエイジングセンター
職位  :教授/センター長
学位  :博士(薬学)
コメント:本研究では、マウンテンキャビアに含まれるサポニン「モモルジンIc」が、胃排出の遅延やGLP-1分泌促進といった消化管機能の調節を通じて脂質吸収や代謝に影響を及ぼすことを明らかにしました。これは、天然物がもつ多面的な生物活性の一端を示す成果であり、今後はヒトでの有効性や作用機序の詳細な解明を進め、機能性食品素材としての応用展開を目指したいと考えています。

【研究支援】
本研究は、科学技術振興機構 次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)(高田隆矢、指導教員:森川敏生)および日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究C(22K06688、23K06202)の支援を一部受けて実施しました。

【用語解説】
※1 総エネルギー消費量:基礎代謝・身体活動・食事誘発性熱産生を含めた、1日のエネルギー消費量の合計を示す指標。
※2 サポニン:植物に広く含まれる配糖体の一種。界面活性作用を持ち、抗炎症や代謝調節など多様な生理活性が知られている活性天然物。
※3 GLP-1:グルカゴン様ペプチド-1。腸から分泌されるホルモンで、インスリン分泌促進や食欲抑制に関与する。糖尿病や肥満治療の標的として注目されている。
※4 LDL/VLDLコレステロール:血中脂質の一種で、いわゆる「悪玉コレステロール」を含む。過剰になると動脈硬化のリスクが高まる。
※5 二重標識水(DLW)法:安定同位体(<sup>2</sup>Hおよび<sup>18</sup>O)で標識した水(DLW)を用いて、日常生活下での総エネルギー消費量を測定する方法である。ヒトおよび動物を対象に、DLWを投与後、数日から約1週間にわたり採取した尿や血漿などの体液中の同位体濃度の減少速度を、同位体測定専用の質量分析計を用いて高精度に定量することで算出する。なお、共同研究機関の(一財)生産開発科学研究所・生研分析センターでは、外部機関からの同位体測定の受託分析を行っている。

【関連リンク】
薬学総合研究所 教授 森川敏生(モリカワトシオ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/823-morikawa-toshio.html

薬学総合研究所
https://www.kindai.ac.jp/rd/research-center/prti/


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