6月6日に開催された「第5回ようが健幸教室」では、「生活習慣病に対する運動療法」をテーマに内科医の立場から、健康維持に欠かせない運動の重要性についてお話ししました。
高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病は、薬による治療だけでなく、「体を動かすこと」が大きな治療の柱になります。
今回は講演前半の内容をご紹介します。
「メタボ管理」だけでは健康寿命は延びない
生活習慣病というと、
血圧を下げる
血糖値を改善する
コレステロールを下げる
といった「メタボリックシンドローム」の管理が注目されがちです。
しかし、それだけでは十分とは言えません。
加齢とともに筋肉や骨、関節の機能が低下していく「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」が進行すると、将来的な寝たきりや介護につながる可能性があります。
つまり、
生活習慣病の管理と、筋肉や運動機能の維持は、切り離して考えるものではなく、一体として取り組むべき課題なのです。
運動療法を専門的に支える体制づくり
今年、新たに「健康運動指導士」の資格を取得しました。
健康運動指導士は、厚生労働省の認可を受けた資格で、医学的な知識をもとに、安全かつ効果的な運動指導を行う専門家です。
さらに、
・日本医師会認定健康スポーツ医
・人間ドック健診専門医・指導医
・総合内科専門医・指導医
・消化器病学会専門医・指導医
・肝臓学会専門医・指導医
などの知識と経験を生かし、
「病気を治す医療」だけでなく、「**病気を防ぐ医療**」を実践していきたいと考えています。
なぜ運動が生活習慣病改善に欠かせないのか
生活習慣病は、
糖尿病
高血圧
脂質異常症
などが複雑に関わり合いながら、動脈硬化を進行させ、脳卒中や心筋梗塞などの重大な病気につながります。
そして、その背景には「代謝異常」が存在しています。
近年、脂肪肝は単なる肝臓の病気ではなく、全身の代謝異常を映し出す病気であることがわかってきました。
特に重要なのが、「**筋肉**」です。
無理なダイエットが脂肪肝を悪化させることも
2019年、NHK BSプレミアムの番組監修を担当した際、急激なダイエットによって脂肪肝が悪化するケースに注目しました。
極端な食事制限をすると、
・脂肪だけでなく筋肉も減少する
・基礎代謝が低下する
・エネルギー消費量が減る
・リバウンドしやすくなる
という悪循環が起こります。
その結果、
手足は細いのに、お腹だけがぽっこり出る
という特徴的な体型になることがあります。
この状態を「**ダイエット脂肪肝**」と呼び、医学的には「低栄養性脂肪肝」として知られています。
単に体重を減らすことが目的ではなく、
筋肉を維持しながら健康的に体脂肪を減らすことが重要なのです。
基礎代謝を上げる鍵は「筋肉」
私たちの体は、何もしなくてもエネルギーを消費しています。
これを「基礎代謝」といいます。
基礎代謝に関わる主な臓器の割合は、
肝臓:約27%
脳:約19%
筋肉:約18%
腎臓:約10%
心臓:約7%
とされています。
肝臓や脳を鍛えることはできませんが、
筋肉は鍛えることができます。
つまり、
基礎代謝を高めるために、私たちが積極的に働きかけることができる最大の臓器が「筋肉」なのです。
2023年に改訂された「健康づくりのための身体活動・運動ガイド」
厚生労働省は2023年に新しい運動ガイドラインを公表しました。
**成人では、1日60分以上の身体活動(歩数にすると約8,000歩)**
さらに、筋力トレーニングを週2~3回行うことが推奨されています。
そして、もう一つ重要なのが、
「座りっぱなしの時間を減らすこと」
です。
長時間座り続ける生活は、
・心血管疾患
・糖尿病
・肥満
などのリスクを高めることがわかっています。
たとえ運動をしていても、
「長時間座り続けること」によって、その効果が弱まってしまう可能性がある
と考えられています。
日常生活の小さな動きが健康を守る
激しい運動だけが健康づくりではありません。
・階段を使う
・少し遠回りして歩く
・家事をする
・子どもや孫と遊ぶ
・横断歩道を早歩きする
こうした日常生活の中で自然に体を動かす活動は、「NEAT(非運動性熱産生)」と呼ばれています。
特別な運動時間を確保できなくても、
**「こまめに動くこと」**
を意識するだけで、エネルギー消費量は増え、生活習慣病予防につながります。
有酸素運動・筋トレ・ストレッチの3本柱
運動療法で大切なのは、**1つの運動だけに偏らない**ことです。
① 有酸素運動
ウォーキングやジョギングなど、脂肪燃焼効果が期待できます。
② 筋力トレーニング
スクワットやランジなど、筋肉量を維持し、基礎代謝を支えます。
③ ストレッチ
柔軟性を高め、血流改善や疲労回復、ケガ予防につながります。
この3つをバランスよく組み合わせることが、
生活習慣病を改善し、健康寿命を延ばすための基本となります。
「運動は薬」と考える時代へ
これまで医療は、「病気になってから治療する」ことが中心でした。
しかし超高齢社会を迎えた今、重要なのは
「**病気を予防し、元気に歳を重ねること**」です。
そのためには、
・メタボ対策
・ロコモ予防
・筋肉量の維持
・日常的な身体活動
を総合的に考える必要があります。
運動は、単なる健康法ではなく、生活習慣病や寝たきりを防ぐための「治療」の一つです。
後半では、
・ウォーキングの正しいフォーム
・筋肉量よりも重要な「筋肉の質」
・InBodyによる体組成評価
・AI姿勢解析が教えてくれる「ほぐす」と「鍛える」の関係
などについて、さらに詳しくご紹介します。
※後半記事リンク※
講演者:
菊池 真大(きくち まさひろ)院長
用賀きくち内科 肝臓・内視鏡クリニック院長 / 医学博士
日本消化器病学会専門医、日本肝臓学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。 1999年に慶應義塾大学を卒業後、米国ペンシルベニア大学消化器内科への留学を経て、国内の基幹病院で診療経験を重ね、2024年10月に「用賀きくち内科 肝臓・内視鏡クリニック」を開業。
肝臓専門医、内視鏡専門医、総合内科専門医として診療を行うとともに、日本医師会認定健康スポーツ医、そして2026年3月には健康運動指導士の資格を取得。
生活習慣病や未病の予防に対し、より医学的根拠(エビデンス)に基づいた運動療法を提案している。