琵琶湖に養殖ウナギを放流すると大きく成長することを明らかに ダム上流域の湖沼が養殖ウナギの放流場所に適している可能性を提示
近畿大学大学院農学研究科(奈良県奈良市)水産学専攻博士後期課程2年 髙作圭汰、近畿大学農学部(奈良県奈良市)水産学科4年 花木基子(研究当時)、同4年 加澤渚(研究当時)、同4年 小田康平(研究当時)、同教授 小林徹、同准教授 光永靖、同准教授 亀甲武志、滋賀県立大学(滋賀県彦根市)准教授 田辺祥子、滋賀県水産試験場(滋賀県彦根市)主査 石崎大介らの研究グループは、天ヶ瀬ダム(京都府宇治市)と瀬田川(滋賀県大津市)の上流に位置する琵琶湖に、養殖場では成長が好ましくなかった小型の養殖ウナギ※1 を放流するとよく育つことを明らかにしました。本研究成果は、ニホンウナギ※2 の資源回復や、天然ウナギ※3 漁の改善に向けた選択肢として、ダムの上流にある湖沼へ養殖ウナギを放流する手法が有望である可能性を掲示するものです。
本件に関する論文が、令和8年(2026年)3月3日(火)に、日本水産学会の国際誌である"FISHERIES SCIENCE(フィッシャリーズ サイエンス)"にオンライン掲載されました。
【本件のポイント】
●ダム上流域に位置する琵琶湖へ養殖ウナギを放流するとよく育ち、大きくなることを明らかに
●出荷サイズに到達しなかった小型の養殖ウナギが放流後にメスに分化し、3~4年で漁獲サイズまで成長
●本研究成果は、ダムなどの河川横断構造物の上流に位置する湖沼が養殖ウナギの放流場所として適している可能性を提示
【本件の背景】
ニホンウナギは、古くから日本をはじめとする東アジア諸国で重要な食料資源として親しまれています。しかし、シラスウナギ(稚魚)の乱獲や生息環境の悪化などにより資源量が減少したことで国際自然保護連合(IUCN)によって絶滅危惧種(絶滅危惧IB類(EN))に指定され、資源を回復させる取り組みが求められています。その取り組みの一環として、全国各地で養殖ウナギの放流が実施されていますが、近年の研究から、天然ウナギが豊富に生息する河川では養殖ウナギと天然ウナギが競合し、放流後の養殖ウナギの生存や成長は好ましくないことがわかってきました。そこで、養殖ウナギの効果的な放流場所として、天然ウナギがほとんどいないダムなどの河川横断構造物の上流域が注目されています。
本研究の調査地である琵琶湖は、元々天然ウナギが海から淀川を通じて遡上していました。そして、琵琶湖の下流部に位置する瀬田川(図1)では、琵琶湖で成長したのちに海へ降るウナギを捕獲する漁業が行われ、20世紀中旬頃には年間20~55トンほど漁獲されていたという記録があります。しかし、昭和39年(1964年)に淀川中流域に天ヶ瀬ダムが設置されたことで、天然ウナギの遡上が困難になりました。そこで、琵琶湖では現在に至るまで、漁業者による小型の養殖ウナギの放流が実施されており、商品価値の高い大型ウナギが継続的に漁獲されて市場へ流通し、地域経済の活性化に貢献しています。このことから、琵琶湖へ放流後の養殖ウナギの成長は良好であることが予想されていましたが、科学的には明らかにされていませんでした。さらに、琵琶湖へ放流後、何年で漁獲サイズに達するかなどもわかっていませんでした。
【本件の内容】
研究グループは、琵琶湖へ放流前の養殖ウナギと、主に春から夏に琵琶湖で漁獲されたウナギを入手し、性別や年齢、体サイズ、生殖腺の発達段階を調べました。その結果、放流前の養殖ウナギの年齢は1~2歳で、多くの個体が30cm未満の小型であり、(ウナギの雌雄は成長段階で決まるため)雌雄はまだ決まっていませんでした。一方で、30cm以上の個体は概ねオスになっていることが明らかになりました。次に、琵琶湖で漁獲されたウナギは4~6歳の個体が主群で全長40~80cmであり、すべてメスに分化していました。これらの結果から、放流時に性別が決定していない小型の養殖ウナギが琵琶湖へ放流後にメスに分化し、琵琶湖で大きく成長して、放流後3~4年で漁獲サイズに達することが示されました。さらに、琵琶湖へ放流後の養殖ウナギの成長速度は他水域の天然ウナギと比較しても良好であり、養殖場では成長が好ましくなかった養殖ウナギが、琵琶湖へ放流後に大きく成長することがわかりました。また、琵琶湖で漁獲された一部の個体では、体色や生殖腺の発達段階において、産卵親魚である銀ウナギに類似した特徴が確認されました。これは、琵琶湖のような湖沼が養殖ウナギを大型のメスに育成できる場となり、資源回復や完全養殖に必要な良質な卵確保にもつながる可能性を示唆しています。
本研究は、河川横断構造物の上流域に位置する湖沼へ小型の養殖ウナギを放流することで、各地域のウナギ資源を効果的に増やすことができる可能性を示しており、資源回復を目的とした今後の放流施策の立案に貢献できると考えます。
【論文掲載】
掲載誌:FISHERIES SCIENCE(インパクトファクター:1.4@2024)
論文名:High growth and silvering status of cultured Japanese eels (Anguilla japonica)
stocked into Lake Biwa, Japan
(琵琶湖に放流後の養殖ウナギの高成長と銀化実態)
著者 :髙作圭汰<sup>1*</sup>、花木基子<sup>2</sup>、加澤渚<sup>2</sup>、小田康平<sup>2</sup>、石崎大介<sup>3</sup>、田辺祥子<sup>4</sup>、光永靖<sup>2</sup>、
小林徹<sup>2</sup>、亀甲武志<sup>2※</sup>
*筆頭著者 ※責任著者
所属 :1 近畿大学大学院農学研究科、2 近畿大学農学部、3 滋賀県水産試験場、4 滋賀県立大学
URL :https://doi.org/10.1007/s12562-026-01966-x
DOI :10.1007/s12562-026-01966-x
【本件の詳細】
琵琶湖へ放流前の養殖ウナギと、主な漁期である春から夏にかけて琵琶湖で漁獲されたウナギを入手し、性別や年齢、体サイズ、生殖腺の発達段階を調べました。その結果、放流前の養殖ウナギは、年齢は1~2歳で、多くの個体が30cm未満の小型であり、生殖腺が未分化でした。一方で、30cm以上の大型個体については概ねオスになっていることがわかりました。次に、琵琶湖で漁獲されたウナギは4~6歳の個体が主群で全長40~80cmであり、すべてメスに分化していました。このことから、放流時に性別が決定していない小型の養殖ウナギが琵琶湖へ放流後にメスに分化し、琵琶湖で高成長を示して放流後3~4年で漁獲サイズに達することがわかりました。
また、琵琶湖へ放流後の養殖ウナギの1年間あたりの成長速度を調べたところ、他水域の天然ウナギと比較して良好であることが示されました。加えて、琵琶湖で漁獲されたウナギの一部の個体では、体色の黒化や生殖腺の発達段階など、産卵回遊(西マリアナ海嶺南端部へ向かう約3000kmの回遊)を行う銀ウナギと類似した特徴を持つ個体が確認されました。これらのウナギが実際に産卵回遊を行うのかは不明ですが、資源回復に向けて、養殖ウナギを活用して琵琶湖で効率的に銀ウナギを育成できる可能性があります。
日本各地で実施されている養殖ウナギの放流は、天然ウナギが豊富に生息する河川で実施されています。しかし、これらの河川では、先住の天然ウナギとの競合や捕食者による捕食により、生存や成長が好ましくないことが指摘されています。一方で、湖沼は餌資源が豊富で多様な生息環境が存在するため、放流された養殖ウナギが成長する場所として適している可能性があります。本研究成果を踏まえ、今後は、天然ウナギが遡上できなくなった河川横断構造物の上流域に位置する湖沼での放流を促進することで、ウナギの資源回復への貢献が期待されます。
【研究者のコメント】
亀甲武志(きっこうたけし)
所属 :近畿大学農学部水産学科、近畿大学大学院農学研究科
職位 :准教授
学位 :博士(農学)
コメント:滋賀県庁水産課に在職していた平成27年(2015年)4月から平成30年(2018年)3月までの3年間、琵琶湖におけるウナギの放流事業を担当していました。在籍当時、ウナギの放流現場に立ち会うと、鉛筆サイズの小型個体から40cm程度の大きな個体まで、放流される養殖ウナギにはさまざまな大きさが混入している様子を見ていました。そのため、琵琶湖では、放流種苗のうちどのような個体が漁獲に貢献し、放流後何年で漁獲サイズに成長するのか、大変興味を持っていました。しかし、当時は琵琶湖のウナギの生態については十分に研究が進んでいなかったため、近畿大学に着任後、私の研究室に所属した最初の学生である髙作さんたちと滋賀県水産試験場とともに研究を始めました。学生たちが頑張ってくれたおかげで、小型の養殖ウナギが琵琶湖で大きく成長することが確認でき、しかも産卵親魚である銀ウナギに匹敵する個体も確認できました。今回の結果は、琵琶湖のウナギ放流事業を効果的に進めるうえで貴重な情報になると思います。さらに、大きく成長した産卵親魚も産卵させることができれば、ウナギ資源の回復につながるのではないかと期待しております。
【用語解説】
※1 養殖ウナギ:ニホンウナギの完全養殖技術は確立されているが、商業レベルでは途上である。そのため、国内で流通する養殖ウナギは、天然のシラスウナギを捕獲し、養殖池で「土用の丑の日」に向けた出荷を目指して、半年から1年かけて出荷サイズに成長させる。
※2 ニホンウナギ:日本をはじめとする東アジア諸国に生息するウナギ属魚類で、日本で漁獲や養殖されるほとんどがこのニホンウナギである。ニホンウナギは、西マリアナ海嶺南端部で生まれ、海流に乗って東アジア諸国の沿岸に来遊する。その後、稚魚(シラスウナギ)になり遊泳力がつくと、河川や湖沼などに遡上し成長期を過ごす。そして、5~10年ほど成長すると、銀ウナギになり産卵場へ回遊を行うという生活史を持つ。
※3 天然ウナギ:産卵場から日本などの沿岸域に来遊し、自力で河川や湖沼へ遡上して生息しているウナギ。
【関連リンク】
農学部 水産学科 教授 小林徹(コバヤシトオル)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/174-kobayashi-tooru.html
農学部 水産学科 准教授 光永靖(ミツナガヤスシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/185-mitsunaga-yasushi.html
農学部 水産学科 准教授 亀甲武志(キッコウタケシ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2466-kikko-takeshi.html
農学部
https://www.kindai.ac.jp/agriculture/