GaN系垂直共振器型面発光レーザヶCSEL)¹⁾は、可視光領域における高効率・小型光源として注目されており、次世代ディスプレイ、センシング、光通信など幅広い応用が期待されています。
名城大学 理工学部 化学・物質学科 材料機能工学専攻の竹内哲也教授、上山智教授、岩谷素顕教授の研究グループは、GaN系VCSELにおいて、従来重要とされてきた利得ピーク波長制御(デチューニング²⁾)に加え、新たに共振波長制御である「共振器チューニング³⁾」がレーザー特性を大きく左右することを明らかにしました。さらに、この共振器チューニングを積極的に活用することで、内部パラメータの抽出と26.4%の高い電力変換効率の達成に成功しました。
今回の成果は、高効率GaN系VCSEL実現に向けた新たな設計指針を提示するものであり、今後の実用化研究を大きく前進させるものです。
本研究成果は、2026年4月30日にAIP「Applied Physics Letters」に掲載され、Featured Article(注目論文)として高く評価されています。
【ポイント】
・面発光レーザーにおいて、従来重要とされてきた「共振波長に対する利得ピーク波長制御(デチューニング)」に加えて、GaN系では「DBR(分布ブラック反射鏡)⁴⁾中心波長に対する共振波長制御(共振器チューニング)」がレーザー特性に大きな影響を与えることを初めて実証
・AlInN/GaN DBRは高反射率帯のストップバンドが狭いため、共振波長がわずか1%ずれるだけでミラー損失が約2倍(25→50 cm⁻¹)に増大
・共振波長の面内分布を活用することで、系統的なミラー損失依存性の評価が可能になり、半導体レーザー評価において鍵となる内部パラメータ(内部損失と注入効率)の抽出に成功
・25%以上の電力変換効率を実現する設計指針の一つとして、ミラー損失35〜40 cm⁻¹を提示
【研究の背景】
GaN系面発光レーザヶCSEL)は可視光領域での高効率・小型光源として注目されており、次世代ディスプレイやセンシングなど幅広い応用が期待されています。一般に、面発光レーザーでは、共振波長に対する利得ピーク波長の差(デチューニング)がその特性に大きな影響を及ぼすことが知られており、デチューニング制御は高効率素子実現に向けた重要な研究開発要素の一つとなっていました。ここで、GaN系VCSELを眺めると、AlInN/GaN DBRの高反射率帯におけるストップバンドが狭く、すでに実用化されている赤外VCSELで用いられるAlGaAs DBRに比べストップバンドの1/3しかありません。そのため、DBRストップバンドの中心波長(DBR中心波長)からの共振波長のずれが、レーザー特性に大きな影響を与える可能性が示唆されていました。
【研究内容】
このような背景のもと、研究グループは、DBR中心波長に対する共振波長の差に起因するレーザー共振器への影響を理論的に明らかにし、実際に作製された素子におけるウエハ面内分布を有効活用することで、上記影響を実験的にも明らかにしました。すなわち、従来重要とされてきたデチューニングという波長制御に加えて、GaN系VCSELでは、DBR中心波長に対する共振波長の差、これを新たに「共振器チューニング」と名付け、この新たな波長制御がレーザー特性に大きな影響を与えることを初めて実証しました。さらに、その活用により、内部パラメータ抽出と26.4%の高い電力変換効率を実現しました。
具体的には、理論計算によりAlInN/GaN DBRでは、共振波長がそのDBR中心波長からわずか1%ずれるだけでミラー損失が約2倍(25→50 cm⁻¹)に増大することを明らかにしました。続いて、2インチの1/4のGaN基板上にAlInN/GaN DBRおよび共振器長4λのGaN系VCSELを作製しました。そのウエハ上の200個以上のVCSELを測定した結果、素子位置に応じて共振器チューニングが1%程度まで連続的に変化することを見出しました。ここで、このウエハ面内分布と上記計算結果を紐づけることで、同一ウエハ上のVCSELにおいて、ミラー損失が25から50 cm⁻¹まで連続的に変化することを明らかにし、この分布を活用することでレーザー特性におけるミラー損依存性を解析しました。その結果、内部損失11 cm⁻¹、注入効率85%の内部パラメータの導出に成功し、さらに、ミラー損失約40 cm-1において電力変換効率26.4%の高効率動作を実証しました。
【本成果の意義と今後の展開】
本成果は、GaN系VCSELにおいて、従来のデチューニングに加えて、新たに共振器チューニングも高効率素子実現における重要な研究開発要素であることを示すとともに、高効率GaN系VCSEL実現に必須となる設計指針を提供するものです。
今後は、その設計指針を踏まえた上でさらなる高効率化を進めるとともに、二次元集積化による高出力化へと展開します。それにより、次世代ディスプレイ、センシング、光通信など幅広い分野への応用が期待されます。
【研究助成】
本成果の一部は、「科研費基盤S(23H05460)」の援助により実施しました。
図1 GaN系VCSELの構造
本研究で作製したGaN系VCSELの構造を示します。AlInN/GaN DBRをGaN基板上に形成し、その上にMOVPE法およびスパッタリング法により共振器長4λの構造を作製しました。
図2 DBR反射率スペクトルと発振スペクトル
DBR反射率スペクトル(黒)と発振スペクトル(青)の例を示します。DBR中心波長および共振波長の定義と、それらのずれを示しており、これを「共振器チューニング」と定義しています。
図3 波長ずれによるミラー損失シミュレーション
赤外VCSEL(AlAs/GaAs DBR)とGaN系VCSEL(AlInN/GaN DBR)における、DBR中心波長からの共振波長のずれ、すなわち共振器チューニングに対するミラー損失の変化を示します。GaN系ではわずかなずれでミラー損失が大きく増加することが分かります。
図4 GaN系VCSELのレーザー特性のミラー損失依存性
(a) 外部微分量子効率のミラー損失依存性を示します。フィッティングにより、内部損失11±6cm-1、注入効率85±10%と見積もられました。
(b) しきい値電流密度のミラー損失依存性を示します。 (a)で得られた内部損失、注入効率を用いたフィッティングにより良好に再現されました。
(c) 最大電力変換効率のミラー損失依存性を示します。ミラー損失35〜40 cm⁻¹で25%以上の高効率が得られました。
【用語解説】
1)垂直共振器型面発光レーザー(VCSEL)
半導体レーザーの一種で、チップ表面に対して垂直方向に光を出射する光源。
2)デチューニング
良好なレーザー特性を得るための波長制御の1つとして、利得ピーク波長を共振波長に対して短波長側に配置。
3)共振器チューニング
新たな波長制御として、共振波長とDBR中心波長を一致させる設計指針があり、最も反射率の高い波長から共振波長が外れることで、反射率が低下し、ミラー損失が増大。
4)DBR(分布ブラック反射鏡)
屈折率の異なる材料を交互に積層させた構造で、高反射率を得る光学ミラー。
【掲載論文】
雑誌名: Applied Physics Letters
論文タイトル: Impact of cavity tuning on lasing characteristics for GaN-based vertical-cavity surface-emitting lasers
著者名: Naoki Shibahara, Shoki Arakawa, Atsunori Tokushi, Taiki Kitamura, Taichi Nishikawa, Ruka Watanabe, Satoshi Kamiyama, Motoaki Iwaya, Toshihiro Kamei and Tetsuya Takeuchi
掲載日時: 2026年4月30日
DOI : 10.1063/5.0315945
【本件に関するお問い合わせ先】
名城大学 理工学部化学・物質学科 材料機能工学専攻 教授 竹内 哲也
〒468-8502 名古屋市天白区塩釜口一丁目501番地
Tel : 052-838-2293
Email : take@meijo-u.ac.jp
・広報担当
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