ひとりの創作から、チーム制作への挑戦 |舞台挨拶&メイキングオブ:Flow ​​開催レポート|第12回 新千歳空港国際アニメーション映画祭

11月21日(金)から25日(火)までの5日間、新千歳空港ターミナルビルを舞台に開催した「第12回新千歳空港国際アニメーション映画祭」。11月24日(月・祝)に行われた長編アニメーション作品『Flow』特別上映では、本作の監督であり本映画祭の国際審査員を務めたギンツ・ジルバロディス氏による舞台挨拶とトークプログラムが行われました。
『Flow』は2024年のアヌシー国際映画祭で4つの賞を獲得、2025年にはアカデミー賞長編アニメーション映画賞を受賞した話題作です。

舞台挨拶では、本映画祭チーフ・ディレクターの小野朋子が聞き手を務め、アニメーション監督の押山清高氏とともに『Flow』とアニメーション制作について意見を交換しました。両氏は、過去に本映画祭の短編部門で入選した後、長編部門で受賞しているという共通の経歴を持っています。

右手左から、ギンツ・ジルバロディスさん、押山清高さん
右手左から、ギンツ・ジルバロディスさん、押山清高さん

言葉の文化を超えて伝えられるアニメーションの力

押山さんは、本作『Flow』について改めて感想を求められると、まず“自身の解釈ですが”と前置きしながら語り始めました。
『Flow』は、大洪水に包まれた架空の世界を舞台に、街が消えゆく中で一匹の黒猫がボートに乗り合わせた動物たちと助け合い、次第に友情が芽生え、たくましくなっていく物語です。押山さんは、この物語が「アニメ制作の過程を象徴的に表現しているのではないか」と述べ、黒猫はギンツ監督自身を、水位の上昇はスケジュールの逼迫を、そして動物たちは制作におけるさまざまな役割を象徴しているように感じたと、アニメーション監督ならではの視点で話しました。

これに対しギンツさんは、「主人公の猫にも自分の感情は反映されているが、すべてのキャラクターに少しずつ自分の気持ちや感情が投影されている」とコメントしました。また、本作が自身にとって初めての“チーム制作”スタイルであったことに触れ、「自分の中にあった恐怖や不安、これからどうなっていくのだろうという気持ちの方が強く込められていた」とも明かしました。

© Dream Well Studio, Sacrebleu Productions & Take Five.
© Dream Well Studio, Sacrebleu Productions & Take Five.

話題はアニメーション制作における2Dと3Dの違いにも及びました。押山さんが監督を務めた『ルックバック』について、ギンツさんは「非常に素晴らしい作品だった」と評価し、特にカメラワークに深い感銘を受けたと語ります。2Dの手描きアニメーションで難易度の高いカメラワークを実現していた点に触れると、押山さんは『Flow』を観た際に抱いた思いとして、「2Dアニメーションでも、3Dアニメーションのように自由にカメラを動かせたらいいのに」と、その難しさと、3Dが生み出す没入感への羨ましさを率直に述べました。

さらに、クリエイターである両氏に“アニメーションならではの魅力”が問われると、ギンツさんはまず、アニメーションでは動物のキャラクターや洪水といった実写では難しい表現が可能になることを挙げました。また、文化の壁を越えて伝わりやすいこと、特にセリフがなくても理解できる純粋さがある点を魅力として語りました。さらに、制作過程であらゆる要素をコントロールでき、何度でも改善を重ねられることもアニメーションならではの利点だと述べました。

押山さんは、アニメーションでは作り手の意図や意思を明確に表現でき、強い作家性を発揮できる点を魅力として挙げました。特に手描きアニメーションでは、画面に描かれるすべての要素に意味が宿り、複雑な世界でもシンプルに表現できるところに惹かれると語ります。ただし、常に意識的に描いているわけではなく、無意識のうちに生まれる部分もあると付け加えました。

ギンツ・ジルバロディス監督が語るアニメーション制作の軌跡|メイキングオブ:Flow

上映後に行われたトークプログラム「メイキング・オブ:Flow」では、ギンツ・ジルバロディス監督が自身の創作の歩みを語りました。短編から長編への発展、一人制作からチーム制作への移行、そして本作における技術的・創造的プロセスまで、詳細に紹介されました。

短編から長編へ。独学で築いた映像表現

2019年に一人で制作した長編デビュー作『Away』は、フランスのアヌシー国際アニメーション映画祭にて実験性・革新性のある長編作品を対象とするコントルシャン賞を受賞。後に『Flow』の制作を開始しました。
高校時代に制作した短編『Aqua』が『Flow』へとつながるモチーフとなったことを明かします。これまでに手描き、実写、3Dなど多様な技法を用いた7本の短編を制作し、試行錯誤を重ねながら自らのスタイルを確立していったギンツさん。カメラを自在に動かせる表現を求め、手描きからCGへ移行したことが制作スタイルの転機となったと言います。
長編デビュー作『Away』は、大学卒業後に一人で3年半をかけて制作。絵コンテを用いず、映像の流れを組み立てながら物語を構築する独自の手法によって生み出されました。続く『Flow』では、より物語性を重視するため、初めてチームで制作を行い、脚本も自ら執筆するという新たな挑戦に踏み出します。こうした挑戦が可能になったのは、さまざまな映画祭で『Away』が高く評価されたことにより十分な予算が得られたことが大きいと語りました。

初のチーム制作と物語づくりの挑戦

『Flow』の制作はラトビア、フランス、ベルギーの3カ国で進行。50人以下のチーム体制で、各国のスタジオが音響やキャラクターアニメーションを分担しました。ギンツさんはチーム制作による大きな変化として、制作上のあらゆる判断を他者に説明するプロセスが生じ、全ての決定に理由が求められることにより、これまで以上に深く考えるようになったことを挙げました。

ツールとともに進化する表現―「Blender」が導いた新しい映像世界

本作は全編をオープンソースソフトウェアBlenderで制作しています。トークでは作品の大まかな初期レイアウトから最終バージョンまでの工程を示しつつ、 カメラの配置や照明、環境の要素、キャラクターの動きがどのように変化していったのかが説明されました。特に印象的だったのは、それらのソフトウェアを監督自身が今回初めて使用したという点です。制作プロセスを重ねながら習得していったと言います。

特に水のシーンが多く登場する本作は没入感を生み出すために欠かすことのできない要素であり、ギンツ監督が最もこだわった表現でした。大規模な制作チームであれば専門的な技術スタッフがいる分野ですが、本作ではわずか2人が担当。制作初期から取り組んでいたにも関わらず、完成したのはプレミア上映直前であり、この部分についてのストレスは大きかったと語ります。「あまりに困難だったので、次の作品では水の表現は避けるでしょう」とその苦労を吐露しました。

音楽と音響にも強いこだわりをもって制作しています。ギンツさんは音楽制作の経験はないながらもこの作品の作曲者の一人として参加。慣れない音楽制作ソフトを使い、タイムライン上に音符を置いては良い響きになるまで試行錯誤し、シンプルなメロディを組み立てていくことで世界観を作り上げていったと説明しました。また、動物の鳴き声には、実際とは異なる動物の声をあえて採用するといった工夫などもしながら、物語の世界観に深みを生み出していく手法についても解説しました。

最後に、「作品の制作期間についてよく聞かれる」と切り出し、本作には脚本執筆やスタジオの設立、初めて使用したBlenderなどの技術的な習得も含めると5年半ほどの歳月を費やしたとのこと。平均的な制作期間よりも長い時間をかけて完成させた歩みを振り返り、濃密な45分間のトークプログラムを締めくくりました。

新千歳空港国際アニメーション映画祭

国内外の話題作など招待作品の上映はもちろん、多様な未来につながるアニメーションの体験を提供する70以上のプログラムを展開。ゲストと観客が密接に交流できる独自の場を活かし、アニメーションの意義を拡張するような新しい価値を生み出す「遊び場」として、エネルギーを持ち帰ることができる文化交流拠点の創造を目指しています。
「第12回 新千歳空港国際アニメーション映画祭」
開催日時:2025年11月21日(金)〜25日(火) 5日間
場所:新千歳空港ターミナルビル(新千歳空港シアターほか)


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