紫外線対策は本当にそこまで必要なのか?〜「浴びたか」ではなく「どれだけ浴びたか」〜
雪山で一日を過ごした登山者が、その夜、目を開けていられないほどの痛みと涙に襲われる。「雪目(雪眼炎)」——古くから知られた眼の傷害です。溶接の火花を至近で浴びた職人が翌朝に同じ症状を訴えることもあり、こちらは「電気性眼炎」と呼ばれます。
紫外線が眼を傷つけることを、私たちがもっとも実感しやすいのは、こうした場面です。雪原の照り返し、溶接の光——いずれも、**短い時間に、猛烈な量を浴びた**ケースです。
つまり紫外線と眼の関係は、そのはじまりから、「量」の話だったとも言えます。この一点を握りながら、話を進めていきたいと思います。
いま、テレビや広告を通じて「紫外線から眼を守ろう」という呼びかけを、以前よりずっと多く目にするようになりました。眼を守ること自体は、もちろん大切です。けれども、その呼びかけが、医学のわかっている範囲を少し超えて、必要のない人にまで不安を広げてはいないか。眼科医として、そこを立ち止まって考えてみます。
結論を先に言えば、本稿はサングラスを否定する記事ではありません。むしろ、**必要な人には積極的に勧めます**。問うているのは、たった一つ——「誰が、本当に対策を必要とするのか」ということです。
◇ まず認めよう —— 紫外線が眼を傷つけるのは、事実である
議論の出発点として、はっきりさせておきます。紫外線が眼にダメージを与えることは、確かな事実です。
急性のものが、冒頭の光線角膜炎(雪目・電気性眼炎)。慢性のものとしては、白目から黒目へ組織が伸びてくる**翼状片**、白目の一部が黄色く盛り上がる**瞼裂斑**、そして水晶体が濁る**白内障**——なかでも周辺部から濁る**皮質白内障**が、紫外線と関連づけられてきました[1]。
これらは「関連が乏しい」話ではありません。一定の証拠が積み上がっている、実在するリスクです。ですから本稿は、「紫外線なんて気にしなくていい」という主張とは正反対の場所に立っています。
その上で——です。
◇ 鍵はひとつ —— 「浴びたか」ではなく「どれだけ浴びたか」
ここが、この記事のいちばん大切なところです。
紫外線による眼の病気を考えるとき、本当に効いてくるのは「紫外線を浴びたかどうか」ではありません。**「生涯でどれだけの量を浴びたか」**です。
近年の研究では、この考え方が **COUV(Cumulative Ocular Ultraviolet Exposure=累積眼紫外線曝露量)** という言葉で整理されています。金沢医科大学の研究グループを中心に、日本人を含む国際比較研究から、近年の中国・台湾の漢民族を対象としたCOUV研究まで、この「累積量」と白内障・翼状片の関係が丁寧に調べられてきました[3][4][5]。
要点はシンプルです。少し浴びたか浴びなかったか、ではなく、**何十年にもわたって積み上がった総量が、リスクの大きさを大きく左右する**。だから、同じ「屋外にいる人」でも、その中身——一日何時間、何年、どんな環境で——によって、意味はまったく変わってきます。
この「累積量」という物差しを手にすると、世の中の紫外線対策の議論が、ずいぶん見通しよく整理できるようになります。
◇ 用量が、もっとも明確に語る病 —— 白内障と翼状片
累積量の効果がいちばんきれいに見えるのが、白内障です。
古典的な研究があります。アメリカ・チェサピーク湾で働く漁業従事者838名を調べたもので、16歳からの生涯の眼紫外線曝露量を、職歴と実地測定から一人ひとり推計しました。その結果、**累積UVB曝露量が倍になると、皮質白内障のリスクが約1.6倍**に上がっていました。一方で、核白内障とUVBの間、また白内障とUVA(紫外線の中でも波長の長い成分)の間には、はっきりした関連は見られませんでした[2]。
「紫外線を浴びれば白内障」ではなく、「**量が積み上がるほど、特定のタイプの白内障が増える**」——用量反応の関係です。
気候の異なる地域を比べた研究は、この構図に厚みを与えると同時に、単純化への歯止めにもなります。佐々木先生らの国際比較では、白内障の出方に地域差があり、能登やアイスランド・レイキャビクでは皮質の濁りが、より紫外線量の多いシンガポールでは核の濁りが目立つ、と報告されています[3]。「紫外線=皮質白内障」と一本には言い切れない複雑さがある、ということです。それでも、生涯にわたる紫外線曝露が白内障——とりわけ皮質の混濁——に関わるという疫学的な流れ自体は、先のチェサピーク湾の研究[2]をはじめ、支持されています。
翼状片も同じです。累積曝露量が多い人ほど翼状片が多く、逆に言えば**翼状片は「その人がどれだけ紫外線を浴びてきたか」の目印になる**ことが示されています[5]。眼の表面に、生涯の紫外線量が刻まれているようなものです。
ここまでは、紫外線対策が理にかなう領域です。では——。
◇ だから、問うべきは「あなたは、どれだけ浴びているか」
累積量という物差しを当てると、対策が必要な人と、そうでない人が、自然と分かれてきます。
**紫外線を多く浴びる人**——たとえば、農業・漁業・建設・交通整理といった屋外の仕事に長年携わる方。屋外スポーツの指導者。ゴルフ、釣り、サーフィン、登山、スキー、海水浴を習慣にしている方。こうした方々は、生涯の累積量が大きくなります。**帽子とサングラスは、合理的な選択**です。ここは、はっきり勧めます。
一方で、**多くの人は、そこまで浴びていません**。オフィスワーク、在宅勤務、屋内中心の仕事。買い物や通勤で外に出る程度。日陰を選んで歩く方。——こうした日常を送る人にとって、積み上がる紫外線量は、そもそもそれほど多くありません。
コンビニに行くたびにサングラスをかけないと白内障になる、というレベルの話では、ありません。それは、量の桁がまるで違うのです。
**同じ「紫外線対策」という言葉でも、屋外で何十年も働く人と、通勤で日を浴びる人とでは、必要性がまったく異なる。** これが、累積量という考え方から見えてくる、いちばん実用的な結論です。
◇ ここから先は、証拠が薄くなる —— 射程を超えた主張
紫外線対策の話には、確かな部分と、そうでない部分が混在しています。ここでは、しばしば「わかっている」かのように語られるけれど、実は証拠が十分でない主張を、いくつか丁寧にほどいていきます。
**加齢黄斑変性(AMD)と紫外線。** 「紫外線を浴びるとAMDになる」という説明を見かけますが、これは慎重に扱うべきです。総説でも、AMDと紫外線曝露の関連については十分な証拠がない、とされています[1]。AMDには、加齢そのもの、喫煙、遺伝的な体質、酸化ストレスといった要因のほうが、より確立したリスクとして知られています。紫外線だけで説明できる病気ではありません。
**「高齢だから、紫外線が網膜に届く」という説明。** これは、方向が逆です。古くからの研究で、**水晶体の紫外線透過率は、加齢とともに低下する**ことがわかっています[6]。つまり、歳を重ねるほど、紫外線はむしろ網膜に届きにくくなる。若い眼のほうが、よく透過させるのです。「高齢者は紫外線で網膜が傷む」という説明は、単純化しすぎです。
もちろん、これは「高齢者に紫外線対策は要らない」という意味ではありません。翼状片や皮質白内障のように、眼の前方や水晶体に関わるリスクは、また別に考える必要があります。ここで言いたいのは、「紫外線がそのまま網膜を焼く」という説明が単純化しすぎ、ということだけです。
**「白内障の手術をしたから、紫外線で網膜が焼ける」という不安。** 現代の眼内レンズ(IOL)の多くは、紫外線をカットする設計が標準です。実際、IOLの分光分析では、UVカット型のIOLが400nm未満の紫外線を良好に遮ることが示されています[7]。ですから、術後だから紫外線で網膜が傷む、という説明は正確ではありません。(なお、「紫外線カット」と「ブルーライトカット」は別の話です。紫外線カット型のIOLは紫外線を遮る一方、青色光は通します[7]。すべてのレンズが青色光まで遮るわけではありませんが、少なくとも紫外線については守られています。)
こうした「単純化された恐怖」は、聞くと不安になりますが、一つずつほどいていくと、根拠が薄いことがわかります。
◇ 子どもたちのこと —— 低いリスクのために、選べない負担を課していないか
子どもの紫外線対策には、大人とは別の、少し込み入った論点があります。
まず押さえておきたいのは、**子どもの近視のこと**です。近視の進行を抑えるうえで、最も確かな環境要因は「屋外で過ごす時間」であることが、繰り返し示されています。学校の休み時間を屋外で過ごすようにした介入研究では、近視の発症・進行が抑えられました[8]。少なくとも近視予防という観点では、屋外にいること自体が、眼を守る方向に働くのです。
では、サングラスは近視に悪いのか——。ここで、擁護論とは逆向きの、しかし同じくらい大切な話をします。
サングラスをかければ、眼に届く光の量は当然減ります。けれども、屋外の光は屋内より桁違いに明るいため、多少さえぎっても、近視予防に有利とされる明るさは残りうるのです。実際、シンガポールでの測定研究では、サングラスや帽子を使っても、眼に届く照度は屋内よりずっと高いことが示されています[9]。したがって、**少なくとも現時点で、「子どものサングラス使用が近視を悪化させる」と直接示した強い臨床エビデンスはありません**。
(ここで正直に付け加えます。「UV400など、360〜400nmのバイオレットライトまで遮りやすい設計では、近視抑制にはむしろ不利かもしれない」という、サングラスに反対する側の議論も存在します[10]。けれども、これを検証したランダム化比較試験では、全体の解析では眼軸の伸びを抑える効果ははっきりせず、近業時間が短く、かつ眼鏡の使用歴のない子どもに限ったサブグループでのみ、有意差が報告されました[11]。対象数も小さく、慎重に読むべき結果です。興味深い仮説ではありますが、これをもって「ふつうの紫外線カット眼鏡やサングラスが近視を悪くする」と一般化できる段階ではありません。私は、たとえ自分の結論を後押ししてくれる主張であっても、証拠が弱いものには乗らないことにしています。)
では、子どもにとっての本当の論点は何か。それは——**日常を送る平均的な子どもにとって、毎日のサングラスが減らしてくれる"上乗せ分"のリスクは、そもそも小さい**、ということです。これは、先ほど大人で述べた「低曝露群」の考え方を、そのまま子どもに当てはめているだけです。累積量が少なければ、対策の必要性も小さい。
にもかかわらず、その小さなリスクのために、私たちは子どもに「眼鏡」という負担を課してはいないでしょうか。費用、壊れる・なくす手間、装用のわずらわしさ。そして何より、**「太陽は危険なものだ」という刷り込みを、幼いうちから内面化させること**。子ども本人は、この対策を自分で選んだわけではありません。低いリスクのために、選べない相手に負担を課す——その構図に、少し立ち止まってみたいのです。
もちろん、例外はあります。雪山、水辺、高地、真夏の連日の屋外競技——**累積量が実際に大きくなる子どもには、大人と同じく、保護は理にかなっています**。「子どもにサングラスは一切不要」と言い切るのも、また一つの行きすぎです。ここでも物差しは同じ、「どれだけ浴びるか」です。
◇ リスクではなく、快適性の話 —— QOLの道具として
ここまで「紫外線対策」として論じてきましたが、サングラスにはもう一つ、まったく別の顔があります。**快適に過ごすための道具**、という顔です。
サングラスは、紫外線だけでなく、風、乾燥、砂ぼこり、花粉から眼の表面を守ってくれます。環境条件が眼表面の健康に影響することは、近年の大規模なレポートでも整理されており、たとえば高地や紫外線は翼状片や眼表面の変性と、大気汚染はドライアイや結膜炎と関連づけられています[12]。ドライアイの方にとっては、サングラスが症状をやわらげる助けになることもあります。これは病気を予防するというより、日々を楽にするための使い方——生活の質(QOL)の話です。
そして、まぶしさ。光をまぶしく感じやすい方(羞明)にとって、サングラスは快適性をはっきり上げてくれます。私は、**まぶしい人は、好きに使えばよい**という立場です。ここは否定する理由がまったくありません。
大切なのは、この「快適性のための使用」と、「病気予防のための使用」を、混同しないことです。前者は個人の自由で、どうぞご自由に。後者は、リスクに応じて考えればよい。分けて考えれば、どちらもすっきりします。
◇ なぜ「全員に同じ対策」が生まれるのか
ここまで見てきたように、紫外線対策は、本来なら「その人がどれだけ浴びるか」に応じて、濃淡があってしかるべきものです。屋外で何十年も働く人には強く、日常を屋内で過ごす人にはゆるやかに。
ところが実際には、しばしば「全員に、同じ対策」というかたちで語られます。なぜでしょうか。
一つには、「みんなに勧める」ほうが、メッセージとしてわかりやすく、伝わりやすいから。「あなたは高曝露群だからサングラスを、あなたは低曝露群だから気にしすぎなくていい」という、丁寧な区別は、どうしても伝わりにくいものです。
とりわけ、学校を通じた販売には、少し慎重でありたいと思います。学校は、ふつうの小売の場とは違います。「子どもの目を守るために」と案内されれば、たとえ希望者向けであっても、保護者には「買わないと、うちの子だけ不利になるのでは」という心理が、どうしても生じます。
もし学校で導入するのであれば——対象は屋外の部活動など、実際に曝露量の大きい子どもなのか、それとも一般の登下校まで含むのか。医学的な根拠は何か。帽子や日陰の活用では足りないのか。導入する製品の選定は、透明な手続きで行われているのか。ここまで説明されて、はじめて納得できる話だと思うのです。「希望者だけだから問題ない」という説明は、学校という場が子どもと家庭に及ぼす影響力を、少し軽く見ているのかもしれません。
悪意があるわけではないと思います。わかりやすさと、善意と、不安とが、重なった結果、エビデンスの射程を少し超えたところまで「全員に同じ対策」が広がっていく。だからこそ、受け取る側が、自分で射程を測れることが大切なのだと思います。
◇ おわりに —— 必要な人に、必要な対策を
医学は、リスクの高い人に、強く介入する学問です。全員に同じことを一律に勧めるのではなく、その人の状況に応じて、濃淡をつける。それが、限りある注意と労力を、いちばん意味のあるところに向ける方法です。
紫外線対策も、まったく同じです。
問題なのは、サングラスではありません。サングラスは、必要な人にとっては良い道具であり、まぶしい人にとっては快適な道具です。問題は、**全員に、同じ対策を、同じ強さで勧めてしまうこと**——リスクの濃淡を無視して、一律に不安を広げてしまうことのほうにあります。
だから、最後にもう一度、この記事の芯を。
**紫外線を浴びたか、ではありません。どれだけ浴びたか、です。**
そして——**必要な人に、必要な対策を。**
リスクの物差しは、専門家と一緒に確認できます。だから、どうか過剰に恐れず、まぶしければ心地よくサングラスをかけ、そうでなければ安心して、前を向いて日々を過ごしてください。
(了)
参考文献
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