水完全分解光触媒における初めてのオールインワン助触媒を実現 ―サステイナブルな水素社会の実現に向けて―
【発表のポイント】
●脱炭素社会の実現を目指し、クリーン水素製造の有望な方法として、光触媒(注1)による水完全分解(OWS)(注2)が注目されています。
●二次元金属有機構造体(2D-MOF)(注3)が光触媒のオールインワン助触媒として機能することを初めて見出しました。
●ワンステップ自己組織化法により簡便に光触媒を2D-MOFで修飾でき、高効率の水完全分解を達成しました。
【概要】
光触媒による水完全分解(OWS)は、持続可能な水素生産に大きな可能性を秘めています。OWSでは、光触媒表面での水素発生反応(HER)と酸素発生反応(OER)の双方の促進が極めて重要であり、おのおのの反応に、個別に高い活性を示すHERおよびOER助触媒を、光触媒上の狙いの位置に選択的に修飾することが高活性化の鍵になります。しかし、煩雑な多段階光析出プロセスと逆反応を阻害するための酸素遮断層の必要性、逆反応を完全に抑制することの難しさ、遮断層の耐久性に関する懸念など、依然として大きな課題が残っています。
東北大学大学院理学研究科の坂本良太教授らの研究グループは、導電性二次元金属有機構造体(2D-MOF)の一種であるCo-HHTPがオールインワンの助触媒として機能することを発見しました。Co-HHTPをOWS光触媒であるSrTiO<sub>3</sub>:Al上にワンステップ自己組織化法で担持させることで、酸素遮断層なしで酸素還元逆反応(注4)を起こさず、350nm(ナノメートル、ナノは10億分の1)における見かけの量子効率(AQE)31.5%という安定したOWSを実現しました。2D-MOFが提供するオールインワン助触媒の概念は、効率的かつ実用的なOWSシステムの設計に新たなパラダイムを提供します。
本研究成果は、2026年4月23日18時(日本時間)で科学誌 Nature Chemistry誌にオンライン掲載されました。
【詳細な説明】
<研究の背景>
脱炭素社会の実現を目指し、クリーンな水素(H<sub>2</sub>)製造の有望な方法として、光触媒による水完全分解(OWS)が注目されており(図1)、実用化に向けた研究が推進されています。光触媒はOWSの熱力学的駆動力を与えますが、光触媒表面の水素発生反応(HER)活性および酸素発生反応(OER)活性は限定的であるため、OWSの効率向上には、助触媒による光触媒表面の修飾が必須です。従来の光触媒システムでは、HERとOERを促進するために別々の助触媒を精密に配置し、さらに酸素還元逆反応を防ぐためのO2遮断層をHER助触媒上に設けるといった複雑な工程を必要としていました(図2(a))。この複雑なプロセスは大規模生産、酸素還元逆反応の完全な抑制、耐久性など、実用化に向けた様々な障壁となっていました。
<今回の取り組み>
光触媒OWS助触媒に関する上述の困難に対する解決策の1つは、オールインワン助触媒の確立です(図2(b))。オールインワン助触媒とは、単一の助触媒(または単一の前駆体から生じる助触媒)が、HERとOERの両方を触媒するが、酸素還元逆反応を促進しないものを指します。これまでに助触媒は、実質的には金属および金属酸化物に限定されており(HER助触媒:Rh/Cr<sub>2</sub>O<sub>3</sub>など、OER助触媒:CoOOHなど)、オールインワン助触媒は実現されていませんでした。
東北大学大学院理学研究科の坂本良太教授の研究グループは、京都大学大学院工学研究科のJingyan Guan大学院生、鈴木肇助教、冨田修助教、阿部竜教授、大阪大学大学院基礎工学研究科の神谷和秀准教授、原田隆史技術専門職員、大阪大学大学院工学研究科の佐伯昭紀教授、東北大学の黒河博文講師、海原大輔技術職員、米倉功治教授(理化学研究所グループディレクターを兼任)、東京理科大学の福居直哉研究員(研究当時)、前田啓明講師(研究当時)、山口友一講師、工藤昭彦教授、近畿大学の杉本邦久教授、岡山大学の山方啓教授らとの共同研究により、導電性を有する二次元金属有機構造体(2D-MOF)の一種、Co-HHTP(図3)がオールインワンの助触媒として機能することを発見しました。複雑な多段階工程ではなく、ワンステップ自己組織化法によって、光触媒(SrTiO<sub>3</sub>:Al)の表面をCo-HHTPのナノドメインで修飾することに成功しました(図4)。Co-HHTPを修飾したSrTiO<sub>3</sub>:AlはO2遮断層なしで酸素還元逆反応を起こさず、350nmにおける見かけの量子効率が31.5%という安定したOWSを実現しました(図5)。
<今後の展開>
基礎科学的視点では、オールインワン型助触媒という新規なコンセプトの実証を行った点に大きな価値が存在します。また、オールインワン型助触媒の実現は、導電性2D-MOFの特長(導電性、分子構造に基づく反応選択性、多孔性)を最大限活用することで達成されました。導電性2D-MOFの合理的応用展開を実現した点にも、基礎科学的飛躍が認められます。
応用面では、光触媒OWSの実用化に近づく重要な知見が得られました。すなわち、貴金属や有害なCr(クロム)を使用せず、安価な金属イオンと有機配位子の組み合わせで高性能な助触媒を実現した点に大きな価値があります。簡便なワンステップ自己組織化法はプロセス的利点も包含します。「オールインワン助触媒」という新しいパラダイムは、クリーンな水素エネルギー製造プロセスの実用化に向けた重要なステップとなります。
【謝辞】
本成果は、科学技術振興機構(JST)創発的研究支援事業(JPMJFR203F)、同 戦略的創造研究推進事業 CREST(JPMJCR24S6)、同 未来社会創造事業(JPMJMI23G2)、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金(JP25H01644、JP25H01674、JP25H01999、JP24K01494、JP24K01528、JP24H00485、JP24K21809、JP23K18001、JP23H03937、JP23KJ1388、JP23H02061、JP22H05145、JP20H05838、JP20H00398)、旭硝子財団、日本板硝子材料工学助成会、ENEOS東燃ゼネラル研究奨励・奨学会、泉科学技術振興財団、創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(JP25ama121006)、地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(JPJS00420230010)からの助成・支援を受けて実施されました。本論文は『東北大学 2026年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業』によりオープンアクセスとなっています。
【用語説明】
注1. 光触媒:光を照射することにより自身は変化しないが、触媒作用を示す物質。
注2. 水完全分解(OWS):水を分解し、酸素と水素を取り出す現象。光触媒の場合、そのバンドギャップ以上のエネルギーを持つ光が照射されると励起電子と正孔が生じる。これらがそれぞれ水の還元、酸化反応を行うことで水分解反応が進行する。
注3. 二次元金属有機構造体(2D-MOF):金属有機構造体(MOF)は金属イオンと有機配位子が規則的に結合した、ナノレベルの微細な穴を持つ多孔性結晶材料で、北川進特別教授(京都大学)らの2025年ノーベル化学賞の受賞対象となった物質群である。2D-MOFはMOFのうち、二次元シート構造を特徴とするものを指す。
注4. 酸素還元逆反応:光触媒上で生成した酸素が再び電子を受け取って還元される反応や、生成した水素と酸素が助触媒上で反応して再び水に戻る反応を指す。これらの反応が起こると、水素生成の効率が低下する。
【論文情報】
タイトル:Two-dimensional metal-organic frameworks offer all-in-one cocatalysts
for photocatalytic overall water-splitting
著者 :Jingyan Guan, Hajime Suzuki*, Kazuhide Kamiya, Takashi Harada, Rintaro Adachi,
Osamu Tomita, Hirofumi Kurokawa, Daisuke Unabara, Koji Yonekura, Naoya Fukui,
Hiroaki Maeda, Kunihisa Sugimoto, Yuichi Yamaguchi, Akinori Saeki,
Akira Yamakata, Akihiko Kudo, Ryu Abe*, Ryota Sakamoto*
*責任著者 京都大学大学院工学研究科 助教 鈴木肇、京都大学大学院工学研究科 教授 阿部竜、
東北大学大学院理学研究科 教授 坂本良太
掲載誌 :Nature Chemistry
DOI :10.1038/s41557-026-02133-6
URL :https://www.nature.com/articles/s41557-026-02133-6
【関連リンク】
理工学部 理学科 教授 杉本邦久(スギモトクニヒサ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2743-sugimoto-kunihisa.html
理工学部
https://www.kindai.ac.jp/science-engineering/